茂木友三郎・日本生産性本部会長
1957年に米国で販売会社を設立し、いまや海外で「キッコーマン」といえば醤油の代名詞。その立役者が茂木友三郎キッコーマン名誉会長だ。日本生産性本部の会長も務める同氏に自身の経験や知見を基に日本の中小企業施策や生産性向上策、起業のポイントなどを縦横に語ってもらった。
日本の中小企業は経済に占める割合が大きいし雇用もたくさん抱えている。小さいながらも独特の技術を持つ企業もあり、経済の発展にも貢献している。今後も健全な育成が重要だ。
ただ、育成のやり方が問題だ。中小企業を助ける政府の機関はいろいろあるが、税金を一律に安くするなどの相対的な支援ではなく、個別企業の実情に合わせた支援が必要ではないか。これだけ世の中が複雑になってくると、一律の産業政策は、経済にとってむしろマイナスになる恐れがある。
きめ細かい支援を
シンガポールなどでは子供たちの能力と個性などに合わせてカスタマイズされた教育が行われていると聞いている。子供の得意課目がそれぞれ違うように中小企業にも個性があり、一律に支援しても効果はあがらない。
いま業績の良い企業でも、将来はわからないところとずっと良さそうなところがある。逆に業績が低迷している企業でも、将来伸びるところともっと悪くなるところがある。さらに将来性が見込めず助けることが難しい企業もある。それらを分別して伸ばすべきは必要ならお金も使って支援する、存続が難しい場合は廃業しやすいよう指導していく、新しい分野を切り開くベンチャー企業には手助けをする、というように、温かさと厳しさの緩急をつけてきめ細かい支援をすべきだ。
日本生産性本部は優れたサービスを創り届けるしくみを表彰する「日本サービス大賞」を実施している。今年は神奈川県の旅館・陣屋のサービスが総務大臣賞を受賞した。生産性向上は効率を上げることだと思われがちだが、生産性とは付加価値を労働投入で割ったもので、分子である付加価値を高めることがより重要だ。陣屋はITを駆使するなどの工夫をして平均客単価を上げ、高級旅館として生まれ変わった。付加価値を高めて生産性を上げた中小企業の代表例だろう。
生産性向上は中小企業政策の根本だ。全体の生産性を上げるには経済全体の新陳代謝が必要だろう。役割を終えた事業・企業や生産性の低いところには市場から退出してもらい、生産性の高い新しい事業や分野で起業してもらう。転廃業しやすい環境整備として、雇用のセーフティネット拡充や流動性を促す労働市場の整備、また一度市場から退出した企業の経営者や社員が再チャレンジできるような資本市場の整備が必要となる。
需要創出の着眼重要
起業を成功させるには何が必要か。キッコーマンが米国で醤油を売るためにやったことは、スーパーの店頭で醤油につけた肉で焼き、切って楊枝に刺し、お客さんに食べてもらうインストアデモンストレーションだ。米国人に醤油の味を知ってもらうために始めたが、評判が良かった。あわせて、醤油を米国料理にどう使うかを米国人のホームエコノミストを雇って研究してもらい、そのレシピを新聞の家庭欄などに載せてもらった。醤油瓶の首に小さなレシピブックを付けたり、クックブックも発行した。インストアデモンストレーションとレシピ開発によって、米国に醤油の需要を創り出した。 私も米国留学中の夏休みなどにスーパーの店頭に立った。経営大学院で学位を取得すると、帰国してキッコーマンに戻った。米国に留学したばかりのころは、実を言うとそれほど醤油への関心は高くなかった。しかし、デモンストレーションをやるうちに、醤油はもしかすると国際的に通用するかもしれないと感じるようになっていた。醤油を世界に広める仕事をしてみようと思った。 醤油という商品に惚れ、醤油の国際化の取り組みに60余年。起業を成功させるには新規需要を創り出す先進的な着眼が一番大事なポイント。そして自社の商品に愛情を持つことだ。勝てるという信念があると売り方も変わってくる。(談)
略歴
茂木友三郎(もぎ・ゆうざぶろう)氏1958年慶大法卒、野田醤油(現・キッコーマン)入社。61年米コロンビア大経営大学院修了。95年社長CEO、2004年会長CEO、11年から取締役名誉会長・取締役会議長。経済同友会副代表幹事、日本経済団体連合会常任理事などを歴任し14年6月、日本生産性本部会長に就任。千葉県生まれ。83歳。
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